Dvorak 配列入門: 配列の説明と練習プログラムの紹介

2010-01-23 更新

1 はじめに

このウェブページではDvorak 配列に関する以下の 3 点を説明する。 第一点はDvorak 配列の概略である。 第二点はDvorak 配列に切り替える Windows 用ソフトウェアとしてはどのようなものがあるかだ。 第三点はDvorak 配列を日本語入力で使用するときの欠点と解決方法である。 練習プログラムについては適宜説明する。

2 Dvorak 配列

2.1 Dvorak による初期の配列

Dvorak 配列 とは August Dvorak により考案された配列である。 以下では、August Dvorak (とDealey, William L.) の特許 "Typewriter keyboard" (U.S. Patent No. 2040248) を参照しながら、Dvorak 配列を説明する。

Dvorak は当時の QWERTY 配列に存在していた欠点を十点指摘している(ページ番号3の50行目以降)。 その十点については各自確認していただきたい。 ここで一つ情報を補足しよう。 Dvorak の説明中では QWERTY 配列ということばが使用されていない。 かわりに、"universal" keyboard や the present keyboard ということばが使用されているのだ。 これについては 戦略的思考とQWERTY - yasuoka の日記を参照すること。

Dvorak 配列は、アルファベットの頻出順のみならず打鍵のつながりを考慮して作成された。 具体的には「二文字のつながりまたは二重音字」の打鍵のつながりだ。 打鍵のリズムと言い換えていい。 これは打鍵のミスや打鍵の動作の検討と密接に関係する。 Dvorak 配列の図は上記の特許の書類の一ページ目に掲載されている。

それでは Dvorak 配列の作成過程を確認しよう。

Dvorak は文字の使用頻度を検討した。

まず、ホームポジションの段に E T O A H N I S を配置することにした(ページ番号6の5行目以降)。 さらに U もホームポジションの段に配置することにした。 これで、母音がホームポジションの段にすべて並ぶ。 ここで、母音すべてを片側の手で打鍵するよう取り決めた。 これにより E O A I U というグループができた。

子音については T H N S D のグループを作成した。 これは以下の理由に基づく。 Dvorak は効率的な文字の組み合わせを考えた。 子音の出現頻度を考慮すれば、ホームポジションの段に R や L を配置することも考えられるらしい。 しかし、結局は、ホームポジションの段に D を配置した。

ここまでで、ホームポジションの段に並べる文字が決定した。 以下にその文字の並びを示そう。

A O E U I | D H T N S

つぎに、 R L W F M C B G V というグループを作成した。 これは文字の頻出順を検討した結果だ(ページ番号6の17行目以降)。 これらの文字は頻繁に使用される子音である。

ホームポジションでは、左手が母音を、右手が子音を担当すると決めた。 なぜだろうか。 これは二つの要因による。 ひとつは、右手が左手よりも器用に動作すると Dvorak が想定していたことだ。 ふたつは、母音を担当する手ではない手で出現頻度の高い子音を打鍵するようDvorakが考えていたことだ。

この段階までに決まった文字の並びを示そう。

          | F G C R L
A O E U I | D H T N S
          | B M W V

そして Y と P の配置を検討した(ページ番号6の23行目以降)。 Dvorak は、結果として、ホームポジションの人差し指により近いキーに P を、より遠いキーに Y を割り当てた。 これは、 LY RY PY といった出現頻度の高いつながりを考慮した結果だ。

F と G の配置も Y と P の配置と同様だ。 Dvorak は、ホームポジションの人差し指により近いキーに G を、より遠いキーに F を割り当てた。

      P Y | F G C R L
A O E U I | D H T N S
          | B M W V 

その他文字である K J X Q Z の配置を検討した(ページ番号6の32行目以降)。 これらを左手の下段に配置した。 Dvorak は、 EX といった綴りを同一の指で打鍵しないよう考え、 X を E から離れたところに配置するよう決めた。 つぎに、K と J の配置を考えた。 両者は、 X よりも出現頻度は高いものの、 E との組み合わせは滅多に生じないようだ。これにより、E の近くに両者を配置した。 そして、Q の配置を考えた。 Q は主として U と組み合わせて使用されるので、 U と違う指で打鍵するよう配置した。

これらを考慮して、左から Z Q J K X の順に並べることとした。

      P Y | F G C R L
A O E U I | D H T N S
Z Q J K X | B M W V 

左手上段の残っているスペースに、句読点を配置した(ページ番号6の46行目以降)。

  , . P Y | F G C R L
A O E U I | D H T N S
Z Q J K X | B M W V 

ここで Dvorak がこの配列をどのように見ていたかを紹介しよう。 Dvorak 配列は右利きの人を想定したものだ(ページ番号6の49行目以降)。 その一方、Dvorak は、左利きの人のことも考えていた。 Dvorak は、左利き用 Dvork 配列を、上記の考察の結果できあがった配置を、逆さまにしたものだと説明している。

Dvorak は、英語以外の言語も念頭に置いていた(ページ番号6の52行目以降)。 各言語用のキーボードの最適化をするには、同様の作業過程を踏むことになると説明する。

最後に、この配列が十七の点において優れている旨を主張した(ページ番号6の63行目以降)。

2.2 Dvorak による改良後の配列

安岡さんの「キー配列の規格制定史 アメリカ編 ― ANSIキー配列の制定に至るまで」(「安岡孝一の論文 (PDF版)」にある)にて説明されているとおり、Dvorak は上記の配列を後に改変した。 下段の左端にあった Z を右端へと移動するにとどまらず、数字と記号の位置をも変更したのだ。

7 5 3 1 9 | 0 2 4 6 8
? , . P Y | F G C R L
A O E U I | D H T N S
' Q J K X | B M W V z

以下の説明を参照してほしい。

National business education quarterly / Dept. of Business Education, N ational Education Association of the United States. -- (AA0030930X) に上記の説明があるらしい。

上記の改良版の英文字を採用した配列であれば、記号や数字の配置が改良版の配置と異なっていても、 Dvorak 配列と呼ばれる。

2.3 Dvorak の死後 ANSI に採用された配列

Dvorak の死後、 ANSI X4.22-1983 (現在の ANSI INCITS 154-1988)と ANSI X3.207-1991 (現在の ANSI INCITS 207-1991)に、 Dvorak による改良版の英文字の配列が採用された。 安岡さんの「キー配列の規格制定史 アメリカ編 ― ANSIキー配列の制定に至るまで」(「安岡孝一の論文 (PDF版)」にある)を参照してほしい。

これらの規格は、Dvorak による改良版の配列を採用していない。 記号と数字の配列に注目せよ。

2.4 Dvorak 配列は人間工学上利点を有する

Dvorak 配列を人間工学の観点から分析するとどうなるか。 この問題に取り組んだ研究がある。 それがワグネらの2003年の研究だ (1)

ワグネらの研究の全容を簡単に説明しよう。 打鍵の際の手と指の動作について疲労度を数値化し、打鍵の速度と打鍵のミスのデータを集積し、新たな配列の学習の効率を考慮し、文章の文字の出現頻度等を解析し、それらに基づいてあるアルゴリズムにより配列を生成させる。 このような作業を経て、英語、フランス語、ドイツ語にそれぞれ最適化したキー配列を提示したのである。

ワグネらは、自身等が生成した英語用のキー配列を QWERTY 配列と比較して 41 % 改善したと評価する。 一方、ASNI が採用した Dvorak 配列と比較すれば 1.9 %「しか」(only) 改善しなかったと述べている(205頁)。 そこでは Dvorak 配列をつぎのように評価している。

「……我々のプログラムは、 Dvorak 鍵盤配列がほぼ最適なキーボードのデザインであることを示す傾向がある」(205頁)

Dvorak 配列は人間工学上利点を有しているのである。

もっとも、ワグネらの論文では厳密な評価関数の算定にあたる考察過程が省略されている。 この点を検討する余地は残されている。

2.5 Dvorak 配列では記号の位置が不定

Dvorak 配列の数字と記号の配置についてはいくらかの差異がある。 前述したように、 Dvorak 自身が Dvorak 配列の数字と記号の配置を変更している。 実は、Dvorak 配列として紹介される配列はこれだけにとどまらない。 以下のリンク先に掲載されている Dvorak 配列と説明されている図を見てほしい。 (数字と)記号(と英文字以外のアルファベット)の配置が統一されていないことがわかる。

まとめよう。 このように、Dvorak 配列と言っても、記号のキーの配置が論者により異なるのが現状だ。

2.6 Dvorak 配列の練習プログラム

Dvorak 配列を着実に覚えたいならば、Typex: typing exercise の使用をすすめる。 これは、ABCD: Lesson Overview | ABCD: A Basic Course in Dvorak を移植したものだ。 a b c... とアルファベット順に練習するものではない。 Dvorak 配列のキーの配置に倣った練習プログラムである。 私は、これを二回繰り返したところ、Dvorak 配列でタッチタイピングができるようになった。 もっとも、誰もがタッチタイピングを習得できるとは断言できない。

3 Dvorak 配列に切り替える Windows 用ソフトウェア

3.1 自作ソフトウェア DvorakJ

私が作成した、Dvorak 配列に切り替えるソフトウェア "DvorakJ" を紹介しよう。 Windows 7 Enterprise と Windows Vista sp 2、 Windews XP sp3 でこのソフトウェアの動作を確認している。 以下のページで最新版をダウンロードできる。

このソフトウェアを起動すれば以下の図のようにキーボード配列を変更する。 [Back Space] の左隣を [Del] としたことが特徴だ。 記号の配置については、「猫まねき」によるDvorak化つきのわソフトDvoraker で実装される配列を参考にした。

私家版配列の図

このソフトウェアの特長を七点列挙しよう。

  1. 無料で使用可能
  2. USB メモリ内から実行可能
  3. インストーラーとドライバ双方ともにインストール不要
  4. レジストリを変更しない
  5. 日本語用のキーボードのみならず、英語配列のキーボードにも対応済み
  6. [Ctrl] を押し下げているときに QWERTY 配列に変更する機能を実装済み
  7. DvorakJP など、以下で言及する Dvorak 配列の派生を実装済み

詳細については、以下の Dvorak ヘルプのページを参照のこと。

3.2 その他ソフトウェア

Dvorak 配列への切り替えに特化している、DvorakJ 以外のソフトウェアはつぎのようなものがある。 キーマップを変更しないソフトウェアばかりである。

フリーウェア
dvorak kr release 2
フリーウェア
dvorak kr release 3
フリーウェア
dvorak kr release 4
フリーウェア
voravora ver.0.5β
フリーウェア
Dvoraker Free(Windows95/98/Me / ユーティリティ)
シェアウェア
Dvoraker(Windows95/98/Me / ユーティリティ)

Dvorak 配列に限らず、他の配列への切り替えを実現する有名なソフトウェアはつぎのとおりだ。

フリーウェア
窓使いの憂鬱
シェアウェア
汎用キーバインディング変更ソフト「のどか」(WindowsNT/2000/XP/Vista / ユーティリティ)
シェアウェア
姫踊子草(Windows95/98/Me / ユーティリティ)

4 日本語入力における Dvorak 配列の短所と解決方法

4.1 短所

Dvorak 配列でローマ字入力をすると、左手の人差し指を多用する。 例として、「航空業界(koukuugyoukai)」という語句を打鍵してみよう。 これはWikipedia のDvorak配列による日本語入力で言及されているものだ。 Wikipedia に記述されているとおり、これを「タイプする場合、右手を用いるのは『G』の一回のみ」となる。 それは「比較的使用頻度の高い子音の『K』と『Y』が母音と共に左手に割り当てられている」からだ。

この現象に対応するには、Dvorak 配列を部分的に修正する必要がある。 Dvorak 配列用の拡張入力方式を採用するのだ。 以下では解決法の適用結果を見よう。

4.2 一解決方法:DvorakJP

4.2.1 改善例その一「航空業界」

ここでは DvorakJP - 日本語入力用拡張Dvorakを紹介しよう。 これは Aki:z さんにより提唱された拡張入力方式である。

上記の「航空業界」という語句を、 Dvorak 配列と DvorakJP でそれぞれ入力すると、つぎのようになる。 括弧の直前の一文字が、 DvorakJP により拡張する対象となる文字だ。 また、括弧内の文字が、実際に出力される文字だ。

「航空業界」という語句を Dvorak 配列と DvorakJP でそれぞれ入力したときの打鍵

左手の部分を見よう。 DvorakJPは、 ou のかわりに , を、 ai のかわりに ' を使用する。 また、人差し指を伸ばさずに入力する範囲のキー (K U P) の打鍵回数も減らした。 さらに、人差し指を伸ばした範囲のキー (X I Y) の打鍵回数を 0 回にした。

つぎに右手の打鍵に着目しよう。 K のかわりに C を、 Y のかわりに N を使用する。

結果として、負担が両手に分散された。

4.2.2 改善例その二「料亭」

つぎのお題は「料亭」だ。

「料亭」という語句を Dvorak 配列と DvorakJP でそれぞれ入力したときの打鍵

左手の部分に注目しよう。 ei のかわりに . を使用する。 また今回は、 Y のかわりに H を使用した。

今回も負担が両手に分散された。

4.2.3 改善例その三「運転再開」

最後のお題は「運転再開」だ。

「運転再開」という語句を Dvorak 配列と DvorakJP でそれぞれ入力したときの打鍵

左手の部分を見よう。 ENN と三回打鍵するかわりに j を使用した。

上記のお題について一応断っておくことがある。 これらは DvorakJP の利点を提示するために私が恣意的に選択したものだ。 だから DvorakJP に過度の期待を寄せることのないよう注意する必要がある。

自作ソフトウェア DvorakJ には DvorakJP を実装している。

4.3 DvorakJP 以外の解決方法

自作ソフトウェア DvoarkJ には、DvorakJP の拡張入力方式をも実装している。 その拡張入力方式を列挙しよう。 拡張入力方式毎の詳細はリンク先のウェブページを参照してほしい。

どの拡張入力方式も日本語をより入力しやすくすることを考察したものだ。 その考察過程に着目すれば、各拡張入力方式を覚えることはたやすい。

4.4 Dvorak 配列用拡張入力方式の練習:問題点と解決法

タイピング練習用ソフトウェアとウェブページでは、上述の拡張入力方式を大抵使用できない。 それはこういう理由である。 ローマ字入力で日本語のタイピングを練習するには、IME の日本語入力の機能を無効にする必要がある。 ところが、上述の拡張入力方式は、通例、IME の日本語入力の機能により実装するのだ。 よって、多くのタイピングソフトでは上述の拡張入力方式を使用して練習できない。

良い教材があるにもかかわらず、それらを使用できない。 これは非常になげかわしいことだ。

そこで、自作ソフトウェア DvorakJ では、IME が無効の状態でも拡張入力方式を使用できるようにした。 これで拡張入力方式を使用した練習ができるようになった。 活用してほしい。

4.5 Dvorak 配列用拡張入力方式の練習テキストとツール:DvorakJP 版

DvorakJP 用の練習テキストを二つ提案する。 この練習テキストはお堅い文章や単語レベルの入力を嫌う人向けだ。

第一は、初めての恋が終わる時 :: supercellの歌詞である。 これはDvorakJP の習得の優れた教材と評価できる。 このことを説明しよう。 打鍵することになるキーが多様である。 試しに一通り打鍵してみればわかる。 それだけではない。 C の K への書き換え、撥音拡張、拗音拡張、二重母音拡張を満遍なく使用するのだ。

第二は、「歌に形はないけれど」の歌詞だ。 こちらのテキストは日本語の文章を打鍵するリズム、すなわち交互の手で打鍵をするリズムの習得に専念する教材としてふさわしい。 それはなぜか。 こちらのテキストでは拗音拡張を一度も使用せず、その他拡張もあまり使用しないからだ。

曲の歌詞のタイミングにあわせてタイピングを練習するには、TYPINGMANIAを使用する。 これは「歌の歌詞に合わせてタイピングするタイピングソフト」だ。 どちらの曲についても、TYPINGMANIA 用の設定ファイルが公開されている。 列挙しよう。

歌に形はないけれど
XML配布所 - XMLfiles by tripper
初めての恋が終わる時
★Axfc UpLoader Neon (4~6MB) -Ne_39901.zip- via 初めての恋が終わる時/タイピングマニアUP‐ニコニコ動画(ββ)

TYPINGMANIAを使用するにあたり、注意点が一つある。 それは、後者の設定ファイルを書き換える必要があることだ。 すなわち、公式ウェブページで配布されている mp3 とテキストを表示するタイミングを同期させるために、冒頭部分の待機時間を短縮させるよう書き換えねばならない。

5 おわりに

このウェブページでは Dvorak 配列を概説した。 また、Dvorak 配列を日本語の入力に特化させる案を複数紹介した。 それぞれにつき練習プログラムを紹介した。 Dvorak 配列の入門としては、上記の内容を理解すれば十分だろう。

ただ、このウェブページでは、Dvorak 配列に関する情報を網羅していないことに注意する必要がある。 第一に、Mac と Linux といった他の OS で Dvorak 配列を使用する方法を説明しなかった。 clmemo@aka: Mac OS X で Dvorak 配列Memo - Dvorak & DvorakJP など外部のウェブサイトを参照して欲しい。 第二に、QWERTY 配列を批判する言説を取り上げなかった。 実はこの言説が Dvoark 配列と関連するのだ。 これについては、安岡孝一、安岡素子『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版、2008)や yasuoka の日記を参照すること。


脚註

(1)
Wagner, Marc Oliver, Bernard Yannou, Steffen Kehl, Dominique Feillet and Jan Eggers. 2003. Ergonomic modelling and optimization of the keyboard arrangement with an ant colony algorithm. Journal of Engineering Design. 14(2):187-208. < http://www.informaworld.com/10.1080/0954482031000091509 >. (accessed 31 May 2009).

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